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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

04 第二部下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页

青空文庫

この稲葉家の厚意は一層事をめんどうにした。そこには、どこまでも生家と青山の家との旧好を続けたいという継母おまんが強い意志も働き、それほどの先方の厚意を押し切るということは、半蔵としても容易でなかったからである。

武士としてもすぐれた坂本孫四郎(号天山)のような人を祖父に持つおまんの心底をたたくなら、半蔵なぞはほとんど彼女の眼中にない。彼女に言わせると、これというのも実は半蔵が行き届かないからだ。彼半蔵が平常も人並みではなくて、おかしい事ばかり。そのために彼女まで人でなしにされて、全く生家の人たちには合わせる顔がない。彼女はその調子だ。このおまんは傷口の直ったばかりのような孫娘を自分の前に置いて、まだ顔色も青ざめているお粂に、いろいろとありがたい稲葉家の厚意を言い聞かせた。なお、あまりに義理が重なるからとおまんは言って、栄吉その他のものまで頼み、それらの親戚の口からも、さまざまに理解するよう娘に言いさとした。お粂はそこへ手をついて、ただただ恥ずかしいまま、お許しくだされたいとばかり。別に委細を語らない。これにはおまんも嘆息してしまった。

半蔵は、血と血の苦しい抗争が沈黙の形であらわれているのをそこに見た。