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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

剃り立てた顋のあたりも青く生き生きとして、平素の金兵衛よりもかえって若々しくなった。

「鶴、うまくやっておくれよ。」

「大丈夫だよ。お父さん、安心しておいでよ。」

伏見屋親子はこんな言葉をかわした。

そこへ仙十郎もちょっと顔を出しに来た。金兵衛はこの義理ある甥の方を見た時にも言った。

「仙十郎しっかり頼むぜ。式三番と言えば、お前、座頭の勤める役だぜ。」

仙十郎は美濃の本場から来て、上の伏見屋を継いだだけに、こうした祭りの日なぞには別の人かと見えるほど快活な男を発揮した。彼はこんな山の中に惜しいと言われるほどの美貌で、その享楽的な気質は造り酒屋の手伝いなぞにはあまり向かなかった。

「さあ。きょうは、うんと一つあばれてやるぞ。村の舞台が抜けるほど踊りぬいてやるぞ。」

仙十郎の言い草だ。

まだ狂言の蓋もあけないうちから、金兵衛の心は舞台の楽屋の方へも、桟敷の方へも行った。だんだら模様の烏帽子をかぶり、三番叟らしい寛濶な狂言の衣裳をつけ、鈴を手にした甥の姿が、彼の目に見えて来た。戻り籠に出る籠かき姿の子が杖でもついて花道にかかる時に、桟敷の方から起こる喝采は、必ず「伏見屋」