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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

02 第一部下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,315 字 · 25 页

青空文庫

」とまた佐吉が言う。囲炉裏ばたのすみのところに片足を折り曲げ、食事をするにも草鞋ばきのままでやるのがこの下男の癖だった。

「佐吉、おれは例幣使さまじゃないぞい。」

と総領の宗太が言い出したので、囲炉裏ばたに集まっているものは皆笑った。

吉左衛門の孫たちも大きくなった。お粂は八歳、宗太は六歳、三番目の正己が三歳にもなる。どうして例幣使のことがこんなに幼いものの口にまで上るかと言うに、この街道筋ではおよそやかましいものの通り名のようになっていたからで。道中で人足をゆすったり、いたるところの旅館で金を絞ったり、あらゆる方法で沿道の人民を苦しめるのも、京都から毎年きまりで下って来るその日光例幣使の一行であった。百姓らが二百十日の大嵐にもたとえて恐怖していたのも、またその勅使代理の一行であった。公卿、大僧正をはじめ、約五百人から成るそれらの一行が金の御幣を奉じてねり込んで来て、最近にこの馬籠の宿でも二十両からの祝儀金をねだって通り過ぎたのは、ちょうど半蔵が王滝の方へ行っている留守の時だった。

吉左衛門は広い炉ばたから寛ぎの間の方へ行って見た。そこは半蔵が清助を相手に庄屋本陣の事務を見る部屋にあててある。