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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
02 第一部下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,315 字 · 25 页
早く馬籠を立つ上り下りの旅人以外には、街道を通る人もまだそれほど多くない。宿場の活動は道路を清潔にすることから始められるような時であった。
将軍の上洛以来、この街道を通行する諸大名諸公役なぞの警衛もにわかに厳重になった。その年の日光例幣使は高百五十石の公卿であるが、八挺の鉄砲を先に立て、二頭の騎馬に護られて、おりからの強雨の中を発って行ったといううわさを残した。公儀より一頭、水戸藩より一頭のお付き添いだなどと評判はとりどりであったが、あとになってそれが尾州藩よりの警衛とわかった。皇室と徳川霊廟とを結びつけるはずの使者が、公武合体の役には立たないで、あべこべにそれをぶち壊して歩くのもあの一行だった。さすがに憎まれ者の例幣使のことで、八挺の鉄砲と二頭の騎馬とで、その身を護ることを考えねばならなくなったのだ。
毎月上半期を半蔵の家の方で、下半期を九太夫方で交替に開く問屋場は、ちょうどこちらの順番に当たっていた。吉左衛門の足はその方へ向いた。そこには書役という形で新たにはいった亀屋栄吉が早く出勤していて、小使いの男と二人でそこいらを片づけている。栄吉は吉左衛門が実家を相続しているもので、吉左衛門の甥にあたり、半蔵とは従兄弟同志の間柄にあたる。