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ゆめはよびかわす

夢は呼び交す

蒲原 有明

――黙子覚書――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页

青空文庫

母がいなくなってから、観劇のことが止めになり、何か寂しく物足りなかったところへ、このあでやかな享楽世界を見せられた。子供心にも恍惚たるものを感じていたにはちがいないからである。

小学校へは姉と一しょに登校していた。姉は上級に編入されて試験にはいつも優等であった。この姉がいたばかりに、中学に通うようになるまでを、幼いなりに余り歪められもせずに生い立つことが出来た。そう思って、鶴見は往昔を追想してなつかしがっている。その姉ももうとうに亡くなった。

明治二十年に小学の業を終え、直に府立の中学へ入校したのだが、この年に父は後妻として村山氏を家に納れた。鶴見はここに継母を持つことになったのである。鶴見が弱な小供で意気地のないことを諷して、後年に至るまで、姉は気性がすぐれていたといってよく誉めていた。それで見ると、姉が国に帰ったのはこの年も晩いころであったろうか。

鶴見は姉と肩をならべながら、『新体詩歌』の中の自由の歌やハムレットの独白なんぞを誦じて、街頭を歌って歩いた。この『新体詩歌』は有名な『新体詩抄』の民間版ともいうべきもので、明治十六年にはその第五集を出している。