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ゆめはよびかわす
夢は呼び交す
蒲原 有明
――黙子覚書――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页
鶴見が今持っているこの小冊子は奥附を見ると十九年二月の出版となっている。この書は岩野泡鳴から譲り受けたもので、その当時鶴見が手にした袖珍本と版式に変りはない。そうしてみれば、彼がその本を読んで感動した年代もほぼ明らかになる。今までに類のない新しい歌を歌って町を歩いたことがそう突飛とも思われなかったというのは時勢であろう。その時勢に応じて、いつとなく少年なるべき彼の心に、やがて意志の自由や個性の発現が望まれるようになっていたと解しても好かろう。新時代は確にこうした道をたどってその波動をひろめつつあったのである。
生母に別れた後の鶴見は、親身になって世話をやいてくれるものは誰一人なく、一旦棄てられた小供がまた拾われてかつがつ養われていたような気分に纏われていた。それにもかかわらず、時勢にふさわしい歌を朗かにうたって、鬱屈した精神を素直に伸してゆけたことは全く姉のおかげであった。
しかるに継母が来て、干渉がはじまった。その干渉の裏には棘があった。
姉は好い時機に国へ立って行った。それと共に姉は好い時分に東京にいたともいえる。
毛糸の編みものがその頃流行していた。