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ゆめはよびかわす
夢は呼び交す
蒲原 有明
――黙子覚書――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页
そういう手工にも姉は器用であった。あの鹿鳴館に貴婦人たちが集って、井上外交の華やかさを、その繊手と嬌笑とをもって飾った時代である。有名なのは夜会の舞踏であった。昼間はバザアが催された。姉は相当な官吏の女であるというので、勧められて編物も少しは出品したが、要するに売子に雇い上げられたのである。それはそれで好い。鶴見も絹の袴に紋附を着て、叔母に連れられて後から出掛けて行った。
そこでは休憩室で、珈琲とカステイラを頂戴する。立派な椅子にも腰かけられる。バザアも覗く。姉も鶴見もいわゆる文明開化の誇示をまのあたりに見て、珍らしい経験を得て帰って来たことをおぼえている。忘れえぬ感銘の一つである。
明治十八年には官制の大変革があった。
父は許される限りの出世をして、文部書記官に昇進する。それは好いが、新官制によって定めたとおり、父も遽に大礼服というものを誂えて一着に及んだ。父には到底似合もせぬしろものである。御用商人の手で最上等に仕立てられた。肩や胸には金モオルがこてこてと光っている。それに外套の仰山さには一同びっくりした。こんな物を引掛けては小さい人力車などには乗れそうもない。