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ゆめはよびかわす
夢は呼び交す
蒲原 有明
――黙子覚書――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页
そこに鴎外の芸術家としての真骨頂が何の障りもなく露呈することになる。あそびはもはや余技ではない。気を負うた鴎外の全本領として活かされて来るからである。かの具象的観照の妙処の如きも、将また私を隠した叙述のさばかりの冷徹さも、詰るところ、科学的のポオズを取った鴎外の擬態でなくて何であろう。世間がみんなそういう気になって鴎外を推奨していたならば、鴎外はもっともっと秘法の箱を開けて、その内心の影像を繰りひろげて見せてくれたであろうに、惜しいことをしたものである。
鶴見はそう思いながら、何事も徹底して思量すべき時機が来ていることを知って、いささか慰むるところがないでもなかった。
空想を抑制していたことも、確に鴎外の特徴をなしている。鴎外は空想の放肆にわたるのを太しく恐れていたのである。しかしそれにもかかわらず、なぜか夢を好んでいたように見える。
鴎外はあの明徹な叙事の中にしばしば夢を織り込んだ。『青年』にも『大塩平八郎』にも夢の描写がある。心理的の現象として科学的に取扱ってはあるが、作者が一たびこの夢幻境に入るや否や、たちまちに平生の抑制から解放されて、ひたすらに筆端の自在を楽しんでいるかのようにも見える。