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ゆめはよびかわす
夢は呼び交す
蒲原 有明
――黙子覚書――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,126 字 · 210 页
「そうですとも。うちでは入用がありませんから、いくらあげても好かったのでございます。ちっとも惜しくはなかったのですが、梯子を掛けたり、屋根に上ったりして、高い枝から実を取って遣るのでしょう。一仕事でございましたよ。」曾乃刀自はこういって、娘の静代を顧みて、いかにも同感に堪えないというような表情をする。
「それにまた実を取らないでそのまま附けて置くと、冬になってからあの莢がはじけて、古綿のようなこまかいものが飛び出して来ましたね。そこらじゅうを埃だらけにします。それを掃除するのが骨折でございました。」
家人たちは、きささげにはよくよく懲りたものと見える。鶴見は苦笑しながらも、あの向いの家の年寄りも戦災後どうしたことやらと思ったりして、気の毒がっている。
そんなやかましい楸もすっかり焼けてしまった。
渡来植物といえば、なお一つ気に掛けていたことがある。夾竹桃である。鶴見は明治二十五年の夏になって、はじめて夾竹桃を実見した。ところは沼津の志下で、そこに某侯爵の別荘があった。引きめぐらした伊豆石の塀の上に幾株かの夾竹桃が被さって、その梢を茂らせていた。淡紅色で重弁の花が盛に咲いている。