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あまくさのはる
天草の春
長谷 健
「九州路抄」日本交通公社、1948(昭和23)年9月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,293 字 · 15 页
船賃も安かつたし、船客に手拭のサービスまでしたそうだが、今はそんな話は、ゆめのようなものである)
先着のものから数えて、私は二十五六人目位の位置を占めた。これなら先ず大丈夫だろうと安心していると、そこここで、もうすでにこの土地の人が十数人切符を買つているらしい、と、いい出した。このバスに乗れなければ、七里の徒歩というわけで、人々の不安は去らない。その中、件の女が、つかつかと切符売場の口にいつて、何かごそごそやりだした。如何にも物なれているところ、天草の女のようである。すると、三番目あたりに位置していた男が、並んでいるぞ、並んでいるぞ、と、その女にどなりつけた。女はふり向きもせず、第一番の切符をせしめようと、しきりに切符売に交渉している。三番目の男は、がまんならなくなつたらしく、つと後続の人々をふりかえり、みなさんどうですか。その女のわりこみを許しますかと相談をもちかけた、だめだ、ひつこめ、この心臓女、などの罵声がとび出す。さすがに女もそれには抗しきれなかつたものとみえて、しぶしぶ引さがつていつた。
私は三十六番目の切符を手にいれた。さいごの一枚にあたつていた。