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たじゅうとそのいぬ
太十と其犬
長塚 節
「ホトトギス」1910(明治43)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,769 字 · 32 页
「いいから此れ引っこ抜くべ」
という低い声が続いて聞えた。
「おっつあん此のタンボク引っこぬくかんな」
其声が太十の耳に強く響いた。然し彼は黙って居た。二人は蜀黍の垣根に打ちこんであった棒を抜いた。三次は握って居た荒繩をぐっと曳くと犬は更に大地へしがみついたように身を蹙めた。三次が棒を翳した時繩は切れそうにぴんと吊った。其の瞬間棒はぽくりと犬の頭部を撲った。犬は首を投げた。口からは泡を吹いて後足がぶるぶると顫えた。そうして一声も鳴かなかった。
「おっつあん、うまくいっちゃった」
と先刻の対手は釣してある蓆から首を突っ込んだ。蚊帳の中は動かない。彼は太十の蚊帳をまくった。太十は凝然と目をしかめて居る。
「おっつあん、ありゃどうしたもんだべな」
「埋めてやってくろえ」
太十はやっとそれだけいった。
「それもそうだがな、片身に皮だけはとって置いたらどうしたもんだ」
「どうでも仕てくろえ」
蚊帳の中は依然として動かなかった。二人は用意して来た出刃で毛皮を剥きはじめた。出刃が喉から腹の中央を過ぎて走った。ぐったりとなった憐れな赤犬は熟睡した小児が母の手に衣物を脱がされるように四つの足からそうして背部へと皮がむかれた。