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たいへいようまじょう

太平洋魔城

海野 十三

「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1939(昭和14)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 93,147 字 · 187 页

青空文庫

よく考えてみると、なるほどちかごろ太平洋上に、しきりとふしぎな遭難事件がくりかえされている。しかし太刀川には、なぜそんなことが起るのか、よくわからなかった。そもそも彼は、水産講習所を卒業後、学校に残って研究をつづけていた若き海洋学者であって、海の学問については知っているが、原大佐からたずねられたような海の探偵事件について考えてみたことがなかった。

大佐は、眉をぴくりとうごかし、

「いままでに起った事件は、まあそれとしておいて、きょう君にきてもらったわけは、もっと生々しいことだ。ごらん。こういうものがあるのだ」

そういって原大佐は、さっきから話をしながら指さきでいじっていたはげちょろの丸い缶を、太刀川青年の前におしやった。

「はあ。この缶は、一体どうした缶ですか」

太刀川はけげんな顔をして前に出された缶をみた。それは、彼の掌のうえに、ちょうど一ぱいにのる小さな缶だった。その缶の胴には、一たん白いエナメルをぬりこみ、そのうえに赤黒青のきれいなインキで外国文字を印刷してあるものだったが、白いエナメルの地はところどころはげていて、これまでにずいぶん手荒くとりあつかわれたことを物語っていた。