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めおとのあさ

夫婦の朝

山本 周五郎

「婦人倶楽部」大日本雄辯會講談社、1941(昭和16)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,008 字 · 22 页

青空文庫

三人は恟として振返った。殊に新五郎はお由美が待っているものと信じて来たので、咄嗟に刀の柄へ手をかけながら、

「誰だ、誰だ」と暗がりを透すように居合腰になった。

「なにをそんなに驚かれる、貴公の望み通り五十金を持参したのだ、貴公の方でもむろん、約束の品はお忘れあるまいな」

「お由美どのの手紙か」

新五郎は手紙の束を出して、「此方はちゃんと持って来ている、……だが貴公は誰だ、お由美どのに頼まれて来たのか、それとも」

「いや誰にも頼まれぬ、今朝あの人の心配そうな姿を見て後を跟け、『桔梗』で隣の部屋から仔細を聞いたのだ、……余計なことかも知れないが買って出る、その手紙を五十両で売って呉れぬか」

「よかろう、商売は拙速を貴しとする、先ず金を拝ませて貰おうか」

三右衛門はふところから金包を取出して渡した。……新五郎は用心深く、伴れの提灯で封を切って検めたが、

「慥かに五十両、忝けない」

とふところへ捻込んで振返り、

「では慥かに受取ったと、お由美どのにそう伝えて呉れ、頼むぜ三右衛門」

「そうか」

三右衛門は苦笑して、「矢張り拙者と知っていたのだな、遉に才子沼部新五郎、いまの駈引はみごとなものだ、その才を旨く使ったら立派な者に成れたろうが」