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めおとのあさ

夫婦の朝

山本 周五郎

「婦人倶楽部」大日本雄辯會講談社、1941(昭和16)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,008 字 · 22 页

青空文庫

お由美は震えて来る声を懸命に抑えながら、

「実は弟の半之助が江戸へ来て居りまして」

「半之助が来た……?」

お由美の弟に半之助というのがいる、まだ前髪の頃から悪童の群と近づき、絶えず悶着の種となって親を困らせていたが、遂に身持がおさまらぬため十九歳のとき勘当されて了った。……三右衛門は彼の少年時代を知っているし、勘当されて以来その行衛が知れぬので毎も案じていたのである。

「それはよかった。いま何処にいる」

「今日浅草寺の戻りに会いまして、色々と事情を聞いたのでございますが、ひどく苦労した様子で……すっかり躰を悪くして居りますの」

「それはいけないな、江戸へ来たなら訪ねて参ればよいのに。……兎に角明日にでも拙者が行って伴れて来よう、何処にいるのだ」

「それが……あの」

握り合わせたお由美の指はじっくりと汗ばんでいた。

「半之助が申しますには、今の姿を御覧に入れることはどうしても出来ませぬ、これから上方へ行って修業を仕直し、立派な武士になったうえ、改めてお眼にかかりたいと申しますの」

「うん。……然し躰を悪くしていては直ぐに旅立つという訳にも参るまいが」

「わたくし、弟の心任せにしてやりたいと存じますが、お聴届け下さいませんでしょうか、十金ほど遣わしまして、必ず立派な者になるよう申し訓してやりとう存じますが」