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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

16 結婚ラプソディ

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,177 字 · 22 页

青空文庫

三

左近先生のところへ一緒に行ってくれると、ピアノは三台もあるんだが――」

「でも私、左近先生は怖いんです。まだお逢いしたことはありませんが――」

「そりゃ、世間の評判さ、左近先生だって、まさかぼくのフィアンセを何うしようとはなさるまい」

「でも」

三室銀子は自分の肩を犇と抱いて、処女らしい恐怖に身をふるわせるのです。

「まア、いい、もう一度歌ってくれないか、最初から」

「え、幾度でも歌うわ、――こんな工合ではどう?」

三室銀子は胸を張って、もう一度無伴奏のままフランツを歌い出しました。

谿間せせらぐ秋の水といおうか、草むらにすだく残りの蟲の音といおうか、それは言いようもなく淋しく、やるせなく、そして美しい表現です。

三

不意に、パチパチと廊下で拍手の音がして、ノックもせずに、部屋の扉はスーッと開きました。

「ブラヴォー、お嬢さん、どうぞもう一度、いや、千度でも、全く素敵だッ」

そんな気取ったことを言って、扉の隙間に半身を現わしたのは、四十五六の男、――長身白皙のコールマン髭ではありませんか。

「あ、左近先生」

深沢深は、つまみ食いを見付けられた小僧さんのようにドギマギしました。