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きだんクラブ〔せんごばん〕

奇談クラブ〔戦後版〕

野村 胡堂

16 結婚ラプソディ

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,177 字 · 22 页

青空文庫

四

「さあ、歌って見ましょう、――フランツはあなたのような若い人には地味過ぎていけない。他になんか、おはこはありませんか、――シューベルトの、デュ・ビスト・ディ・ルウ? よかろう、さあ」

左近倉平はグランド・ピアノの蓋を払って、静かに指を下しました。

斯うなるともう、三室銀子は極り悪さも、四方の豪勢さも忘れてしまいました。精一杯に胸を張って、

――君こそは、わが安らい、――やさしき平和、――

と歌い出したのでした。

深沢深は客間の隅っこの安楽椅子にふんぞり返って、面白くない心持で聴いておりましたが、銀子の声の天分と、左近倉平の指導者としての優れた腕前には、癪にさわっても承服しないわけには行かなかったのです。

四

その晩一緒に食事をして、晩くまで話し込んだ上、

「銀子さん、僕が送って行こう、大分晩いようだから」

深沢深の言い出したのを押えて、

「いや、晩くしたのはこの私のせいだ、私が車でお送りしよう」

自動車を呼んで銀子を乗せた左近倉平は、フィアンセの深沢深には眼もくれず、さっさと銀子の家まで行ったのです。

それからの事件の発展は、私の口からは語るに忍びないものがありますが、兎も角筋だけは通さなければなりません。