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ちぎりきぬ
契りきぬ
山本 周五郎
「ロマンス」ロマンス社、1949(昭和24)年10月~11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 32,757 字 · 66 页
約束の日は迫って来た。
三十日という期限が、五日となり四日と迫ってゆく。おなつはあせりだした、そして気持がせいてくるにしたがって、しだいに自信がなくなり、不安な、怖れのような感情が大きくなった。――『みよし』の女あるじの云ったことは本当だ、あのひとはほかのひととはまるで違う、自分などには及びもつかないことだ。こういう考えがだんだん重く胸を塞ぐのである。だが一方ではそれに反撥する気持もつよくなった。
――いやそんなことはない、友達づきあいとはいえ、『みよし』などへ遊びに来るからには、まったく興味がないわけではなかろう……まだ初心なので、自分から機会を把むことができないだけだ。
――そうだ、こっちを見る眼つきの、ときに燃えるような激しさは、慥かに心ひかれている証拠だ、こっちからとびこんでゆけばいいのだ。
今夜こそ思いきって、そんなふうに自分を唆しかけ、そのときは眼をつぶってもと思うのだが、そのあとではきまって決心がゆらぎ、どうしても臆してしまうのであった。――もういけない、やっぱりごまめの歯ぎしりだった。いよいよ期限が明日という日になって、おなつはついにこう諦めた。