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おんなけんし

女剣士

坂口 安吾

「小説新潮 第八巻第八号」1954(昭和29)年5月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,694 字 · 74 页

青空文庫

朝之助は心気爽快であった。

「その方はただいまより家へ戻れ」

「ウン」

「存八と結婚いたしてもよいぞ」

「ウン」

「行け」

「ウン」

歌子は自分の荷をまとめ、木刀に吊してかついで父に別れた。たそがれに近い時刻であったが、浮世の時間は山にはない。

父が行けと云えば行く。歌子の人生はそれだった。父が何を考え、何を悩んでいるか、そして何を悟ったか、それは歌子には分らないし、分りたいとも思わない。分らせたいことがあれば分らせるために語り教えてくれるからだ。他は無用だ。

しかし歌子はこの山中へきてから自分がケダモノになったような気がしていた。悪い意味のケダモノではなく、本当に自然に還ったという意味なのだ。今までは余計な皮をきていたが、それを脱いで本当に自然な自分、そしてケダモノに還ったような気がする。

ケダモノ同士がじゃれ合うように父に向って勝負をいどむ。滝壺の父を打ったのも、ただそれだけのことにすぎない。

父と肉体の関係をもつに至ったことについても、父が命じたことだから従うだけの気持であったが、性交にも感じなかったし、それによって特に新しい考えや感動を得たような覚えもなかった。