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おんなごころしゅうい

女心拾遺

矢田 津世子

「文学界」1936(昭和11)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,514 字 · 36 页

青空文庫

それが、還暦の祝いをすませた頃からだんだんにあそびが納まって、骨董の蒐集へと心が傾いていった。何処で掘り出したのか、金泥の剥げた大時代ものの仏像を床の間にすえて、いかにも娯しそうに撫でてみたり、叩いてみたり、仰反って堪能するまで眺めている容子には、これまでの惰性からあそびの仕草がくりかえされている、ただ、老齢が世間を憚かってその対象をとり代えたにすぎない、とも見うけられた。

万年青いじりがすむと唐沢氏は茶の間に寛いで、老夫人の点てた末茶を一服喫んでから、洋服に着換えていつものように九時十分前に玄関へ降りた。女中のおしもに靴の紐を結ばせながら、式台に膝をついて見送っている老夫人を振りかえって、

「名医はまだ起きんのか?」

ときいた。大学の医学部に学んでいる息子の慶太郎を、こんな愛称で呼び慣れている。

「なんですか、昨夜は遅くまで起きて居りましたようで……」

夫人のとりなしには構いつけない容子で、

「慶太郎! おい、慶太郎!」

階段へ向って大声に呼ばわりながら、握っていた籐のステッキで性急に沓脱石を叩いた。

「ひどいなあ、お父さん、ゆうべは僕、徹夜だったんですよ」