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こうじんぶつ

好人物

佐々木 邦

「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页

青空文庫

「もう沢山でございますわ。私よりも奥さまは何うなさいましたの? 余り御ゆっくりじゃございませんか」

「私は駄目でございますわ。オホヽヽ、もう諦めました」

「まあ、オホヽヽヽ」

というような他愛もないことに尚お存分顎の掛金を弛めた後、

「時に奥さま、私、今日はお礼ながら御相談に上ったのでございますが……」

と内藤夫人は用談らしいものに移ろうとした。

「まあ」

と安子さんはお礼を言われるようなことは一向思い当らなかった。

「主人が毎週上りまして、それも取り分けて遠慮のない人ですから、どんなにかおやかましかろうと存じながらも、つい手前にかまけて失礼致して居りました」

「いゝえ、奥さま、内藤さんはこの頃はいつにもお見えになりませんのよ」

「でも謡曲のお稽古を始めましてからは毎週お宅へ上るように承わって居りますが……」

「それは奥さま、橋口さんのところでございますわ。宅の主人も今日からイヨ/\お弟子入りだと申して居りました」

「あら、村島さんは宅の主人と一緒にお始めになって、宅へも橋口さんと御一緒に二度ばかりお見えになりましたわ」

「そうして主人が謡ったのでございますか?」

「えゝ。