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こうじんぶつ
好人物
佐々木 邦
「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页
宜うございますわ。人を瞞して又遊びに出かけて……」
「奥さま、それは微酔機嫌の御冗談でございましょうよ。宅の主人も謡曲のことはつい先刻迄私に無断でいたのですから矢張り一昨日の晩は牧野さんへ廻る前に橋口さんへ上ったのかも知れませんわ」
と安子さんは内藤夫人の様子が追々険悪になって来るのに気がついた。
「何うも宅の主人は水臭いのでございますのよ。都合次第で嘘を吐きますからね」
「宅のも然うでございますわ。一月も前から始めていながら、今日は内藤さんのお稽古振りを拝見に上るのだと申しましたのよ。それで私も感づいたのでございますわ」
と尚お主人の棚下しが少時続いた後、
「まあ/\それは然うと致しまして、橋口さんのところでございますがね、始終お世話になっていますと、一度御挨拶に上らなければなりませんが、奥さまは無論未だでございましょうね?」
と内藤夫人は漸く用談を切り出した。座敷へ通ってから約一時間たっている。斯う長くなるから何処の主人も細君の外出には陰に陽に妨害を加える。細君の悪口を言って歩く男はない。良人の悪口を言って歩く女はある。
「えゝ。今先刻初めて入門と承わったばかりですから、そんなこと未だ考えも致しませんわ。