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こうじんぶつ
好人物
佐々木 邦
「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页
「宜いのよ、八千代さん」
と言う一方細君は、
「お退きなさいよ」
と良人を突き飛ばした。千吉君は不意を食ってったまゝ、
「ハッハヽヽヽ」
と力なく笑い出した。同時に何か落して破った音が台所から聞えたので、
「お里も覗いていたんだよ。若いものは妙に気を廻して困る」
八千代さんは再び襖を明けて、今度は安心して入って来た。
「お帰り遊ばせ」
「指に刺を立てゝね、叔母さんに取って貰っていたところです」
と千吉君は弁解らしく指を見せなければならなかった。
「八千代さん、この針を仕舞って頂戴」
と細君も良人の言葉に証拠を添える積りか、針を八千代さんに渡して、
「お里や、何を壊したの? 真正に粗々っかしい人ね」
と台所へ窘めに行った。何かというと覗見をして厭な人ねとも言えない。尤ももうお昼の支度の出来る頃である。
この刺の件は慌てもの村島千吉君の日常を伝える一端になる。お昼を食べながら自ら説明したところによると、千吉君は何ういう料簡か停留場から家までの電信柱の数を確める気になった。二十何本か勘定して家の間近で最後の一本になった時、念の為めにその数を言って手を触れると、指先へズキンと来たとある。