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こうじんぶつ

好人物

佐々木 邦

「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页

青空文庫

何方が使っているのか分りません。今度は好いのに当ったと思って相応目をかけていますのに、矢張り不平があると見えまして、もう国許の母親が病気なんでございますよ」

と内藤夫人は話題を女中難に移した。

安子さん今日の目的は内藤夫人を三越へ誘って手土産を見繕い、それから良人達の謡曲の篤志師匠橋口家を訪れるにある。そうしてこの外出全般の主眼は交際即ち例の退屈凌ぎにあって存する。それで吝むところなく一々相槌を打っていたから、連れ立って三越へ向うまでには二時間近くもかかった。但しこれ丈け話し込んだのに、昨日の主人公の俸給の件は一向出て来なかった。安子さんは、まあ宜かったと寛ろいだようなものゝ、何だか物足らない心持もした。序ながら報告あって然るべきところを、この奥さん、ナカ/\食えない人だ。弱味を見せないのは甚だ水臭い。拝むようにして秘密を聴いてしまえば、後は擦ってしまった燐寸のように顧みない。今度昇給があっても、もう/\決して教えてやるまいと思った。

しかし三越に着いて、込まない中にと先ず食堂へ入って御註文を済ませた時、

「奥さま」

と内藤夫人が囁いた。

「は」

「申し後れて済みませんが、昨日は宅のことを種々と有難うございました」