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こうじんぶつ

好人物

佐々木 邦

「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页

青空文庫

今日は然ういう気の長い奥さんが二人お揃いになって、殊に何を買うのか方針が定っていないのだから、日が暮れるかも知れない。

「奥さん、一寸、この煙草セットは如何でございましょう?」

と安子さんが硝子箱の中を物色して相談をかければ、

「好い細工ね」

と内藤夫人は能く透して見た末、

「あらまあ! 百二十円よ」

と吃驚する。

「まあ、百二十円ね。銀ですわ。私は錫の積りだったの」

「錫ぐらいのものよ。猿虎蛇のお礼に銀は過ぎますわ」

「ホヽヽ、お口が悪いのね。それじゃ矢っ張りあの茶器に致しましょうか?」

「然うねえ。けれども余り安物を持ち込むのも考えものよ。田舎の人は直ぐに値踏みをしますからね。吝だと思われちゃ業腹じゃありませんか?」

といった具合で、要するに好いものは高く安いものは悪い。それを安くて好いものが欲しいのだから、勢い彼方此方と尋ね廻らなければならない。

折からお節句で五月人形の陳列があった。それへ差しかゝった時、内藤夫人は歩を止めて、

「奥さま、橋口さんではこの春、男のお子さんがお生れになりましたわね?」

と訊いた。

「はあ、男のお子さんでございますのよ」

と安子さんは質問の意味を察して陳列場の方へ目をくれた。