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こうじんぶつ

好人物

佐々木 邦

「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页

青空文庫

「然うでございましたか知ら」

「まあ、ずるいのね」

と内藤夫人は睨む真似をする。

「そんなら獅咬火鉢は何方?」

「あれもあなたでございますわ。私は火吹き達磨と申したばかりよ」

「重々私が悪いのね。冗談は兎に角この猿虎蛇に致しましょうよ。あんな謡曲にお礼は何だか惜しいような心持がしましたが、これなら溜飲が下りますわ」

と安子さんもお口は決してよろしくない。

「私もよ。けれども大分値が張りますわね」

「それは仕方がありません。仇討ちですもの、犠牲の積りで少し資本を入れましょうよ」

「まあ、執念深いのね」

と二人は到頭猿虎蛇を持ち込むことになった。品物を出口へ廻すように頼んでお剰銭を待っている間に、

「あらまあ、奥さま、もうソロ/\三時になりますよ」

と内藤夫人は初めて気がついた。

「三時十分前ね。でも急げば四時までに参れますわ」

と安子夫人は最前から度々腕時計を見て三越時間の急速を意識していたが、

「奥さま、私、序に一寸見たいものがございますの」

「私もよ。実は御遠慮申上げていましたの」

と内藤夫人も未だ用事があるらしかった。

季節に入ってから、季節のものを買うようではもう晩いというのが安子さんの持論である。