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こうじんぶつ

好人物

佐々木 邦

「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页

青空文庫

折から橋口夫人は末の子に添え乳をした特権として長々と寝転んだまゝ新聞を拝見していた。稍慌しい女中の注進に、

「お二人? お通し申しておくれ」

と落ちついて答えたものゝ、直ぐに鏡台へ這い寄って、鏡に映る自分の姿と少時相談しなければならなかった。然う懇意でない女客の来訪は敵勢の奇襲ぐらいに値するから、相応の身支度が必要である。その間に両奥さまは客間へ案内されたが、襖のところにペタリと坐ってしまった。男子のようにツカ/\と入らないのをもって礼とする。尤も途中悪口を言い/\来たので敷居が高かったのかも知れない。

「まあ/\、お揃いで、ようこそ」

と橋口夫人は案外早目に悉皆改まった姿を見せて、

「さあ、何うぞお通り下さいませ、さあ、何うぞ」

と促すこと再三に及んだ。しかしお客さま方は、

「いえ、もうこゝで結構でございます」

と自分達が通らないばかりか、入口を塞いでいる。

「何うぞ奥へお進み下さいませ。それでは御挨拶申上げられませんから」

と相手が理窟を言い出すまで遠慮した後、

「さあ、奥さま」

「まあ、あなたから」

と互に謙譲の美徳を発揮しながら、清君を間に挾んで一二寸宛ジリ/\と漸くのことで客間へ躪り進んだ。