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こうじんぶつ

好人物

佐々木 邦

「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页

青空文庫

「木田という苗字は御家中にはございませんわ。町家の方でしょう。御家人でしょうか? 御家中なら大抵存じて居りますけれど」

と橋口夫人は平民を眼中に置いていない。

安子夫人と内藤夫人は恐れ入って間もなく退出した。停留場へ向う途中、

「何て厭やな奥さんでしょうね」

と内藤夫人が先ず口を切った。

「私達平民は迚も寄りつけませんわ」

と安子夫人も同感だった。

「もう謡曲なんかお断りですよ」

「清さんは痛快でしたね。オホヽヽ」

「私、困ってしまって、身体がほてって参りましたの」

「構うものですか。自分でも言いたいことばかり言っているんですもの」

「士族の商法にしてはお高いお米ね」

「そこが町人と違うのよ」

「まさか義太夫や長唄も唸れませんてね。オホヽヽヽ」

「私、長唄なら少し下地がありますから腹が立ちましたわ」

「あゝいけ図々しくては猿虎蛇の声も平気なんでしょうから、結局利かせた積りの贈物も通じますまいよ。無神経ですからね」

「して見ればあんなに弾むにも及ばなかったわ。何うせ田舎並みに値踏みをなさるんでしょうから」

「真正に忌々しいわね」

「奥さま方もお始めになったら如何なんて仰有ってよ。