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こうじんぶつ

好人物

佐々木 邦

「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页

青空文庫

「時に村島君……」

と膝を進めた。千吉君はイヨ/\お出になったと思って、断る手順を考えていた。

「……この通り絵は器用で描くものじゃありません。殊に南画は西行法師が歌を読み芭蕉や蕪村が句を作るのと同じ心境で参ります。手先よりは頭の問題ですよ」

と牧野さんは先手々々と打って行く。

「成程」

「手で描かないで頭で描きますから、何人にでも出来るようでいて又何人にでも出来ません。そこが面白いところです。村島君、一つお始めになっちゃ何うです? 未熟ながら御指導申上げますよ」

「はあ」

と千吉君はそれも漸くのことだった。言おうと心掛けて来たところを悉皆出し抜かれてしまって肚の中が種切れになっていたのである。

「米沢君もその中に始めたいと言っていますから丁度好いですよ」

「然うですか。私一人きりでは心細いですけれど……」

「相弟子があれば励みが出ましょう」

と牧野さんは相好を崩した。

「はあ」

と千吉君は結局米沢君の分まで承知してしまった。斯う人柄が好過ぎるのも考えものだ。友達が迷惑する。

およそ芸事の上達は勉強にもよるが主として筋による。筋の悪い人はいくら勉強しても駄目だと聞く。