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こうじんぶつ

好人物

佐々木 邦

「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页

青空文庫

と新聞を見ていた八千代さんが顔を上げた。

「然うです。素晴らしい声でしたろう?」

「大変な不評判よ。私も八千代さんも一晩頭痛がしましたわ」

と細君が言う。

「声量丈けはありますのね」

とは八千代さんの批評だった。

「可哀そうに、声量丈けならポチだってありますよ」

「あれでお上手なんでしょうか?」

「お上手なんでしょうよ。しかし彼処の奥さんは余程頭の丈夫なお方でしょうね?」

「さあ、少くとも御本人は可なり上手の積りでしょう。聞かせたくて仕様がないんですね。実は今朝見送りで一緒になったら、今日は閑かと訊きましたから、閑だと答えると、それじゃ又聴かせに行こうと言うのです。私は安子は我慢しても、あなたの御勉強のお邪魔になると思って、此方から伺うことにして来たんです。些か困るなあ。あの男には」

と好人物の千吉君、同僚の謡曲を持て余している。

「大いに困りますわ。私は頭痛持ちですし、近所の外聞もございますからね」

と良人の交際の為めには随分無理な辛抱もするこの細君が斯う躍起になるところを見ると、橋口さんの謡曲というのは実際並み大抵のものでないらしい。

「実は尠からず困っているんだよ。