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ようふんろく
妖氛録
「中島敦全集 第四巻」文治堂書店、1959(昭和34)年6月刊
N1 · 挑战 · 新字新假名 · 5,005 字 · 11 页
しかし、まだ夏姫は巫臣のものになった訳ではない。
楚の荘王が死んで、共王の代となった。共王は斉と結んで、魯を討とうとし、其の出師の期を告げる為に巫臣を使として斉に遣わすことにした。巫臣は家財を残らずまとめて、出発した。途で、申叔跪という者が之に会い、異しんで言った。「三軍の懼の中に、淫らなる喜びの色が漂うとは、不思議なる哉。」巫臣は鄭に着くと、副使に聘物を持って楚に帰らせ、自分は独り、夏姫を連れて去った。夏姫は別に大して喜ぶ風も見せずに、ついて行った。斉に入ろうとしたが、丁度、斉の師が※の戦で敗れた所だったので、転じて晋に奔った。郤至という重臣の斡旋で、巫臣は刑の大夫として晋に仕えることになった。
夏姫を娶ろうとして巫臣にとめられ、結局其の巫臣に女をさらわれて了った楚の子反は歯噛をして口惜しがった。彼は重幣を晋に遣い、百方手を尽して、巫臣の仕官の途を塞ごうとしたが、空しかった。腹立ちまぎれに、巫臣の一族、子閻、子蕩及び、夏姫の義子に当る黒要を惨殺して、その財を奪った。それでもまだ腹のいえない貌である。
巫臣は直ちに晋から書を送って之を詛い、報復を誓った。