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ようふんろく

妖氛録

中島 敦

「中島敦全集 第四巻」文治堂書店、1959(昭和34)年6月刊

N1 · 挑战 · 新字新假名 · 5,005 字 · 11 页

青空文庫

彼は晋侯に請うて、自ら呉に使し、晋呉を結んで、楚国を挟撃しようとした。楚の南方の属国たる巣と徐とが呉の侵略を受け、子反は之が防戦のため、一歳に七度奔命せねばならなかった。後数年、陵の敗戦の責を引いて、子反は自ら頸はねた。

夏姫は、巫臣の室として、漸く落ちついたように見える。力めて己を抑え、天の意には決して逆らわない。これが嘗て陳楚二国を擾がした妖姫とは、どう見ても受取れない。しかし巫臣は決して安んじなかった。夏姫は以前から斯うした女なのである。この女は年をとらぬのかも知れぬ。もう五十に近い筈であるのに、肌は処子の様な艶を有っている。その不思議な若さが、今や、巫臣にとって煩わしい心遣いの種子であった。婢妾僮僕に啗わしめて秘かに探らせたこともある。彼等の報告は何時も夏姫の貞淑を保証するものばかりである。其等の報告を其の儘信じ込む程人の良い男ではなかったが、秘かな監視を止める程には、未だ超然たり得ない。どういう気持であの女を追い求めたのか、最早それが不思議でならぬ。以前の襄老の子、黒要との場合を考えると、巫臣は、既に成人した息子達にも猜疑の眼を向けずにはいられない。