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つまのざ
妻の座
壺井 栄
「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页
「あら、行くところだったのよ。」
笑って引き返す貞子の、その笑顔の中に、ミネは何とないかげを見つけて、はっとしたが、それを貞子の、自分への思いやりと察してだまって肩をならべた。昨夜殆ど眠っていないミネの顔は、あらわな疲れが出ているにちがいない。
「閑子がきていてね、昨日かえったんですけど。」
「そう。」
それきりだまって歩いた。庭を回って貞子の部屋のぬれ縁から上った二人は、暫らくは互いに黙って向いあっていたが、やがて貞子はふところから白い封筒の手紙をとり出し、
「困ってしまってね。」
と、ミネの前に置いた。ミネはまた胸をつかれた。
「野村さんは、あなたに見せないでくれってかいてあるけれど、見てもらうしかないと思うの。困ってしまった。」
息苦しいほどの興奮のまま、ミネは野村の手紙を、ふるえながらとり出した。やっぱりいけないんだ。やっぱりだめなんだ。慌てた気持で目を通す手紙が、ミネの心にすらりと入る筈がない。一枚の便箋をミネは何度もよみかえした。「閑子さんに欠かんがあるわけではありません。私の方でなじめないのです。二十一年間のせんの女房がそまりついていて、それが邪魔して閑子さんになじめないのです。