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まごしちとずんど
孫七とずんど
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館 、1943(昭和18)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,189 字 · 30 页
「冗談じゃないじゃない、おれは怒るぞ」
「ばかなことはぬきにしよう」孫七郎は逆に詰め寄った、「順序があるの、猫の仔の支度だの、給仕の娘だの嫁だのと、おまえの云うことはわけがわからない、いいか石原寸度右衛門、おれはごたごたしたことは嫌いだ、すべて物事はきまりをはっきりさせなくてはいけない、はっきりと、いいか、そこで改めて訊くが背黒をおれに呉れるのか呉れないのか、否か応か、ひとつそれだけ聞かせて貰おうじゃないか、余計なことはぬきだ、それだけはっきり聞かせて呉れ、わかったか石原寸度右衛門」
寸度右衛門は溜息をついた、「そうだ」とかれは肚のなかで呟いた、昨日こいつは厩の前にくいついていたそうだ、きっとまえから欲しがっていた背黒にみとれていたのだろう、つまり頭の中が背黒でいっぱいになっていたわけだ、娘を見せたって見わけのつく道理がなかったのである……寸度はぬっと座を立った。
「おれはもう帰る」
「帰るといって、背黒はどうなのかね」
「やらないよ」寸度は叩きつけるように云った、「背黒だろうが肚黒だろうがまっぴら御免だ、ながいあいだ欲しかったの、今日のうち貰いたいだの、どうも妙なことを云うと思った、おまけに顔まで赤くしやがって、……まさか馬とは……」