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まごしちとずんど
孫七とずんど
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館 、1943(昭和18)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,189 字 · 30 页
前後左右どこもかしこも、斬りむすぶ敵味方の兵でいっぱいだった。ちょっと見るとどれが味方でどれが敵だかわからない、みんな眼を血ばしらせ歯をくいしばって、おのが相手と面もふらず斬りむすんでいる、あらゆる神経がその限度まで緊張しきっているとみえるのに、案外その動作は緩慢でぎくしゃくしたものに思える、ところがいざ自分で槍をとり直してみると、緩慢どころか呼びかける隙さえない、誰も彼もが当の相手におのれの全身をうちこんでいた、五感のほかに六感というものがあるとすれば、いや七感であろうと八感であろうと、すべてをあげて相手を斃すという一点に集中しているのだ。
「みんな忙がしそうだな」孫七郎はあたりを見まわしながら呟いた、「まるで手の空いたやつはいないじゃないか、ああひとりあすこにいるのが……いや、あれも相手がある」
まったく相手がなかった、四方八方いたるところで戦っているが、孫七郎に注意を向けて呉れる者はみあたらなかった。できるだけ箙の桜を敵の眼につくように、からだの角度をいろいろ案配しながら進んでいったが、どうしてもわれこそと名乗りかける相手がない、これでは合戦にならないのである、孫七郎はほとほと困惑した、それで思いきって、