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まごしちとずんど

孫七とずんど

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館 、1943(昭和18)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,189 字 · 30 页

青空文庫

と呟き、いかにも心残りらしくのっしのっしと厩の前をはなれていった。寸度はもう膳部を前にして坐っていた。「どうしたんだ待ちかねたぞ、いま迎えをやろうと思っていたところだ、まあいいから坐れ」孫七郎は坐った、寸度はすぐに、「酒を持ってまいれ」と呼びたてた。

もう支度をしてあったとみえ、すぐに襖があいてひとりの若い娘が銚子を捧げてはいって来た。しもぶくれのふっくらとした、撮んでみたいようなくくれ顎の愛くるしい顔だちである、からだつきも柔かくすんなりした線で包まれ、白い素足の爪尖が桃色に潤んでいる、美人ではないが、美人を十人集めたなかでも可愛いと思わせる類のむすめだった。寸度はじっと孫七郎のようすを窺っていた、孫七郎は娘を見ていた、それがうっとりとした、どこやら性のぬけたような眼つきだった。……こいつ眼をつけたぞ、寸度はそう察して思わずにやっと微笑した。娘はぽっと頬を赤くし、髪も重げにふかく面を伏せていた。孫七郎のうっとりとした視線がいつまでもくいついているので、眼のやりばもないし、眩しくてしかたがないのである、……なんとまあぶ遠慮にごらんなさるのだろう、娘は赤くなりつつ少しむっとした。