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あんごのしんにほんちり

安吾の新日本地理

坂口 安吾

04 飛鳥の幻――吉野・大和の巻――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,973 字 · 32 页

青空文庫

しかし締切が待っているから仕方がない。翌日から仕事にかかり、競輪にも出かけましたね。再びどッと床につき、今度はいつまでも微熱が去らない。吉野旅行が延び延びとなり、ついに意を決しペニシリンと注射器一式にダイヤジンをぶらさげて吉野へついたら、花の散ったあとであった。しかし、どうせ花を見ない私である。久米ノ仙人の末流さ。

神武天皇が熊野から八咫の烏の先導で吉野にかかったとき、尾のある人間が井戸の中から出てきて、その井戸が光った。お前は誰だと問うたら、国ツ神で名を氷鹿という者だと答えた。これが吉野首の祖先だと古事記に書いてある。その井戸が今も残っている。

竹林院という修験道の宿坊が今は旅館になっている。万事アルバイト時代である。そこの名園(?)から竹林派という造庭上の名が起ったのだそうだが、そこのフモトの汚い谷底に神武天皇の昔光ったという井戸があるのである。谷底といったって、吉野の谷には水というものが殆どない。吉野川は岩石山水の美で名高い渓流であるが、これは吉野山の外側をぐるッと一周して大峯山脈から豊富な水を下流へ運んでいるけれども、山を距てた外側のことで、吉野山の内ブトコロには水がない。