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あんごのしんにほんちり
安吾の新日本地理
04 飛鳥の幻――吉野・大和の巻――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,973 字 · 32 页
吉野の町は両側が谷だ。両側の深い谷にはさまれて、下から上へ桜の名所がエンエンつづいているのだが、両側の谷には殆ど水というものがない。地質のせいかね。そこで吉野山の頂上ちかく上ノ千本のあたりに、大峯山脈のドテッ腹から清水をひいてきて水道をつくり、町民はこの水道を飲料に用いている。井戸を掘っても水がでないのだ。
だから、吉野山に井戸水があるということは例外なのだ。清水というものも、甚しく乏しい量で、後ダイゴ天皇の御製に、枕の下に水くぐる音、とあるが、なるほど吉水院の門前の家には竹のトヨで山腹から清水をひいてチョロ/\流れているのを現に用いているけれども、その清水の溜り水が深く濁りよどんで臭気があるほど流れている水量はチョロ/\にすぎない。吉野の宿屋はこの吉水院と同じように深い谷の上に一列に並んでいるが深夜になっても私の枕の下は水の音がくぐらなかったね。恐らく雨がふれば、眼下の谷に水流の音がトウトウと鳴るのであろうが、お天気の日は枕の下はほとんど水音はないね。実に高い谷なんだ。私の泊ったサクラ花壇という妙テコリンな名の旅館の座敷から見ると、はるか眼下にトンビやカラスが舞いまわり木の枝にとまっている。