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あんごのしんにほんちり
安吾の新日本地理
04 飛鳥の幻――吉野・大和の巻――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,973 字 · 32 页
実にはるか眼下の木の枝にです。トウトウと谷が流れて然るべきだが、吉野山なるものは殆ど水がないのである。
だから、吉野に於ては、むかし、むかし、井戸があるとすれば、実に最高の宝であったに相違ない。吉野の親分が井戸の中から這って現れたというのは当然の話ですよ。東京の親分は省線の駅を縄張りにマーケットをつくるが、吉野の大昔の親分はたった一ツの井戸を縄張りにマーケットを造ったにきまっていや。高い水を売りつけてボッたんだね。貴重な水だから、濁っていても光りかがやくさ。
吉水院の前には珍しく清水があったし、名も吉水だから、吉野をひらいた役の行者がこゝに庵室を造ったというのも、こゝが水にめぐまれていたせいかも知れない。その庵室が後年の吉水院、今の吉水神社、後ダイゴ天皇の仮の宿舎です。この庵室は鎌倉時代の建築で、後ダイゴ帝の泊った時のままのものだ。後ダイゴ帝の遺品には楽器が多いや。御岳丸笙、国軸丸笙という笙があったし、七文字笛、高麗笛という笛の精が中に住みついているようなのもあったね。楽記という書物もあった。続拾遺和歌集があった。風流でいらせられる。詩歌管絃に身をかためて京都を脱出あそばしたね。