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あんごしんにほんふどき
安吾新日本風土記
03 第二回 富山の薬と越後の毒消し≪富山県・新潟県の巻≫
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,916 字 · 46 页
ところが富山に製薬者、帳主、売人、と三ツあるうち、最も業態の不安定なのは帳主だそうだ。帳主はしょッちゅう変っているらしい。つまりお金持ちがひとつ薬もやってみようと考えて人の帳面を買って新しい帳主になる。ところが売人にいい加減にやられて失敗してしまう。帳面に資本をかけるだけで、売人の育成ということにこの商法の根本があることを忘れているからである。帳主自身が売人になって行商にでなければダメだと云われている。要するに帳主というものが無意味な存在なのであろう。
富山薬業の特色は宣伝費の代りに売人という御用聞きが全国の家庭と直結しているという点にあるのだ。もしも製薬業者が直接御用聞きを使っておって、この御用聞きが宣伝費の代りだと自覚しておれば、御用聞きの素質の向上に何より金も努力もかけ販路拡張につとめるに相違ない。しかるに中間に帳主というものがいてこれが御用聞きを使って商いをしているものだから、製薬業者は他国の製薬業者なみの宣伝や全国の薬屋への売りこみの方に心がけ、富山薬業本来の有利な地盤を忘れがちになっている。
売人が孤立してはただの行商人である。全国的に押し売りお断りの声やかましい当節、ともかく富山の薬売りはどの家庭でも木戸御免なのだ。