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いえ

家

島崎 藤村

02 (下)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页

青空文庫

「今、豊世さんから伺ったんですが」とお雪は夫に、「塩瀬の御店もイケなく成ったそうです」

「叔父さんは未だ御聞きに成りませんか」と豊世が言った。

「いよいよ駄目なんですか。好い店のようでしたがナ。そいつは正太さんも気の毒だ」

「真実に相場師ばかりは、明日のことがどう成るか解りませんネ。川向に居ます時分――あの頃のことを思うと、百円位のお金は平素紙入の中に入っていたんですがねえ」と言って、豊世は萎れて、「そう言えば、森彦叔父さんにああ言って頂いたんで、宜う御座んしたよ。あのお金を借りて持っていようものなら、それこそ――今頃はどう成っているか解りません」

三吉はお雪と顔を見合せた。

「私もツマリませんから、花火でも見て遊びますわ」と豊世は嘆息した。

お雪は着物を着更えた。豊世は叔父から巻煙草を分けて貰って、眼を細くしながらそれを吸った。三吉も煙草を燻していたが、やがて独りで二階へ上って行った。

黄色い花火の煙が町の空に浮んだ。三吉は二階の縁側に出て、往来へ向いた簾の影から眺めた。

「……人妻などに成るものではないと、よく貴方から言って寄したから、ひょっとかすると最早名倉さんの方へ帰っているかとも思うが……試みにこの手紙を進げる……」