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いえ
家
島崎 藤村
02 (下)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页
こう三吉は心に繰返して見た。これはお雪が旧い男の友達から、彼女へ宛てて寄した手紙の中の文句で。
言うに言われぬ失望が、ふとこの手紙を読んだ時から、三吉の胸に起って来た。長く艱難を共にしながら、これ程妻が自分を知らずにいたか、と彼は心にナサケなく思った。のみならず、全く心の持方の違った、気質も異なれば境遇も別な、こういう他人の手紙の中から、どう妻の心を読んだら可いか、第一それからして思い迷った。
ポンポン音がする。煙は風に送られて、柳の花のように垂下った。三吉はションボリ立って眺めていた。
「叔父さん――」
と声を掛けて、正太がズカズカ階梯を上って来た。
急に三吉は沈鬱な心の底から浮び上ったように笑った。正太と一緒に坐って、兜町の方の噂を始めた。
「塩瀬の店も駄目だそうだネ」と彼が言って見た。
「豊世からでも御聞きでしたか」と正太は叔父の方をキッと見て、「私が兜町へ入る頃から、塩瀬というものは実は駄目だったんです。外部を弥縫していましたから、店に使われる者すら知らなかった。幹部へ入ってみて、それが解った。いよいよあの店も致命傷を負いました。銀行からは取付を食う、得意は責めて来る――そう成ったら、実にミジメなものですよ。