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いえ
家
島崎 藤村
01 (上)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页
「君なぞも、もっと年をとってみ給え、必と我輩の言うことで思い当ることが有るから……我輩はソクラテスで感心してることが有る。ソクラテスの細君と言えば、君、有名な箸にも棒にも掛らないような女だ……それをジッと辛抱した……一生辛抱した……ナカナカあの真似はできないね……あそこが我輩はあの哲学者の高いところじゃないかと思うね」
先生の話は宗教家のような口調を帯びて来た。そして、種々なところへ飛んで、自分の述懐に成ったり、亜米利加時代の楽しい追想に成ったりする。
「亜米利加の婦人なぞは、そこへ行くと上手なものだ。以前に相愛の人でも、自分の夫に紹介して、奇麗に交際して行く―― 'He is my lover' なんて……それは君、サッパリしたものサ。日本の女もああいかんけりゃ面白くないね」
訪ねて来た客があったので、先生は他の話に移った。
「まあ、小泉さん、よく考えてご覧なさい」という言葉を聞いて、三吉は旧師の門を出た。一歩家の方へ踏出してみると復た堪え難い心に復った。三吉は自分の家の草屋根を見るのも苦しいような気がした。
家にはお雪が待っていた。何処までも夫を頼みにして、機嫌を損ねまいとしているような、若い妻の笑顔は、余計に三吉の心を苦めた。