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いえ
家
島崎 藤村
01 (上)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页
燈火の点く頃まで、三吉は自分の部屋に倒れていた。
「オイ、手拭を絞って持って来てくれ」
こう夫から言付けられて、お雪は一度流許へ行って、戻って来た。あおのけに畳の上に倒れている夫の胸は浪打つように見えた。
「まあ、どうなすったんですか」
と言って、お雪は夫の胸の上へ冷い手拭を宛行った。
翌晩、三吉は机に対って紙を展げた。遅くまで書いた。書生は部屋の洋燈を消し、お福も寝床へ入りに行ったが、未だ三吉は書いていた。
「お雪、すこしお前に読んで聞かせるものが有る……俺が済むまで、お前も起きておいで」
こう妻を呼んで言った。お雪は炉辺で独り解き物をしていた。小さな夏の虫は何処から来るともなく洋燈の周囲に集った。
お雪が鳴らしていた鋏を休めた頃は、十二時近かった。お福や書生は最早前後も知らずに熟睡している頃であった。
「何ですか」
とお雪は不思議そうに夫の机の傍へ来た。
「こういうものを書いた、この手紙はお前にもよく聞いて貰わんけりゃ成らん」
と言って、三吉は洋燈を机の真中に置直した。彼は平気を装おうとしたが、その実周章て了ったという眼付をしていた。声も度を失って、読み始めるから震えた。