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さむはし

寒橋

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,416 字 · 36 页

青空文庫

「この頃っていったって、うちじゃあいつも同じことよ、たいしたこともなしだわ」

「そんなこと云ってるからいけないんだ、あんたは旦つくに惚れちゃってるんだから、ねえいいこと、夫婦であろうとなんであろうと、男と女のあいだじゃ惚れたほうが負けよ、向うに惚れさせなきゃだめよ、……そりゃあ時さんはいい男でしょ、あたしだってちょいと浮気がしてみたくなるくらいだけど、だからよけい弱味を見せちゃいけないの、……それをあんたはあけっ放しなんだから、あけっ放しで惚れきってるからあんな事になるんだ、なによ、……相手が吉原とか柳橋あたりで、だれそれといわれる姐さんならともかく、女中に亭主をとられるなんて女の恥じゃないの」

お孝はあっけにとられた。お文がそんなに酔っているのかと、つい笑いながら顔を見なおした。お文はそれをどう取ったものか、ひどくいきごんで云い続けた。

「おまけにお孝さんときたら、あとから着物や、小箪笥なんぞ買って、お金まで付けて遣ったというじゃないの、いまに赤んぼが生れたら引取って育てるなんて云うんでしょ、あたしだったらおたみなんかびりびりにひっちゃぶいてやるわ、しっかりしなさいよお孝さん」