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さむはし

寒橋

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,416 字 · 36 页

青空文庫

彼はいったん脇へそらした眼を伏せ、湿ったような低い声で呟いた。

「私は心配のかけっ放しだった、これから少しは孝行のまねごともしようと思っていたんだ、……いま死なれちゃあどうしたって気持が済まない、おれは諦めきれないんだ」

「いいえそうじゃない、あたしみんな知ってるの、お父つぁんはあんたにお礼を云ってるわ、あたしだってどんなにうれしいかわからない、うれしくって、……どうお礼を云っていいかわからないわ」

お孝は襦袢の袖でそっと眼を押えた。時三は不審そうにこっちを見て、まるで傷口にでも触れるように云った。

「――みんな知ってるって、……いったい、なにを知ってるんだ」

「おたみの産む子が誰の子だかっていうこと、あの晩あんたがお医者へいったあとですっかり話して呉れたの、あんたがお父つぁんの恥を身に衣て、自分のまちがいのようにとりつくろって、おたみにまでそう云い含めて呉れたということをよ、……あたしばかだから、そうとは気がつかずにあんたを怨んだわ、苦しくって悲しくって、……生きているのが辛かったわ、……だからうれしかった、うれしくって、あんまりうれしくって、……もういつ死んでもいいと思ったわ」