轻松读懂日语经典作品
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さむはし
寒橋
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,416 字 · 36 页
「――もしおたみが放したらな」
「おたみはこれから嫁にゆく躯ですもの、わけを云えば放すわよ……ふふ」
お孝は泣き声で含み笑いをした。
「お文ちゃんがむくれるわね、いつか云ってたとおりになるんだもの、……あんたはいまにその赤んぼも引取るっていうんでしょって、……これだけは本当のこと云えないんだから、あのひときっとまっ赤になって怒るわよ」
その晩は絶えて久しく、そして二人がいっしょになってから初めて、夜具は一つしか敷かれなかった。……桃の節旬も近いというのに、春寒というのだろう、珍しく冷える夜で、火の番の柝の音が遠く冴えて聞えた。
夜半をずっと過ぎてから、時三がそっと起きて来て、物音を忍ばせて仏壇の前へゆき、そこへきちんと坐って、頭を垂れた。
「――有難う、お父つぁん」
彼は低い声でこう囁いた。
「――もうこれっきりです、決してもうあんなことはしません、見ていて下さい、……私はきっとお孝を仕合せにします」
彼は腕で眼を掩った。咽び泣きの声が彼の喉をついてもれた。ずっと遠くで、火の番の柝の音が冴えて聞えた。