轻松读懂日语经典作品
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さむはし
寒橋
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,416 字 · 36 页
「――いったいどうしたんだ、今日は」
時三はこんどは不審そうにお孝を見た。
「――へんなことばかり云って、本当にどこかぐあいでも悪いんじゃないのか」
「ぐあいなんか悪くはないわ、それにちっともへんなことなんて云やしなくってよ、あんたにはあたしの気持がわからないからそんなふうに聞えるんだわ、そうよ、あたしのことなんて、……あんたはちっとも思って呉れてやしないんだわ」
「ばかなことばかり云って、わけがわからない」
こう云いかけるまにお孝は袂で顔を押えて、時三の膝へ泣き伏してしまった。もちろん悲しいのではない、むやみに切ないようなもどかしいような気持で、泣いてしまうよりほかに自分で自分の始末がつかなかったのである。
結婚してから約半年めのその日が、お孝の気持にかなりはっきりと一種の転機を与えた。それは良人が自分にとって絶対にかけがえのないひとだということ、もし良人がよその女に心をうつしでもしたら、本当に自分は死んでしまうだろうということであった。……結婚した女ならそう思わない者はないだろう、ごく普遍的な感情であるが、お孝のばあいはそれがやや極端であった。
下町そだちはいったいにませるものだが、お孝は珍しいくらいおくで、その年の三月、二十歳で時三を迎えるまで男などに気をひかれた覚えは殆んどなかった。