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こむらたんさい

小村淡彩

宮本 百合子

「女性」1926(大正15)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,488 字 · 23 页

青空文庫

欲ばらず、惜げなく働かせられるから、下婢として重宝なばかりではない。彼女を家じゅうでの人気者、笑いの種にした或ることが、案外飲みに来る男の座興を助けることを発見したからであった。

せきについて、やっこらと敷居を片足ずつ跨ぎ、ろくは、膳や、飯櫃を抱えて客に出た。せきが、酒の酌などするのを眺めて、にたにたしつつ坐っている。自分も少し酒気を帯ると、せきは、きっと傍のろくに、

「ねえ、おろくさん、どう? この人じゃあ。きいて御覧よ」

と揶揄(やゆ)し始めた。曰くありげな言葉に、客は大抵、

「何だい」

と訊きかえした。

「いえ、ねえ、ハハハこのおろくさんがね、お嫁にいきたくて堪らないんですて。誰か世話してくれって、いつも訊いてるからね、貴方はどうかと思って」

「ほう、そいつは有難いね、へえ、そうかい、おろくさん、そんなにお嫁にいきたいのかい」

ろくは、そう云われるのばかりを待って、先刻から坐っているようであった。彼女は、五本の指が人並にすっきり離れていず、泥っぽい蹼(みずかき)でもついていそうな手で、食台の縁などこすりながら、

「ヘヘヘヘ」

と笑った。

「ハッハッハッ、ヘヘヘヘはいいね、ハッハッハッお前みたいな器量よしは引手あまたで困るだろう、ハッハッ、どうも恐れ入るな」