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しょうせつのタネ

小説のタネ

吉川 英治

「文藝春秋」1957(昭和32)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,376 字 · 23 页

青空文庫

だが、何しろ清盛っていうと、長い間、旧国民読本の歴史教育の中にまで植え付けられて来ていますからね、その先入主の清盛観は頑固で根強いもんなんです。それを訂正するのは骨が折れました、つねにその先入観との抵抗を感じますからね。それだけにまた、書き甲斐があったとも云えます。要するに、歴史小説も自分を書いてることですよ。清盛の青年を書くことは、僕自体が青年になることでしたよ。自分の血液が青年になる。そう思いますな。だから青年を書くのが僕は一番興味がある。若い清盛がボロ垂衣を着、泥草履を履いて、小バカにされながら歩いてる姿を書くとき、知らず知らずそうなっています。宮本武蔵も「たけぞう」時代を書くのが愉快なんです。「太閤記」なんかもそうですね。彼の日吉丸時代と藤吉郎の頃を僕はいちばん愉しく書いてますよ。秀吉になり太閤になり、彼が少し生意気になると書くのも余り面白くないんですな。出来上ったらつまらない。未完成への愛着、すべて僕のやりばは、そうですね。山腹をよじ登ってる人の姿が僕は好きなんです。山の上まで登っちまうとつまらんという気がするんですね。だからその点において僕の主人公に類型がありましょうな。