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しょうせつのタネ
小説のタネ
吉川 英治
「文藝春秋」1957(昭和32)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,376 字 · 23 页
ところが、デウス右近はローマにおいても日本の使徒として絶対の聖ですからね、ゆめゆめ、そういう女性関係なんかはないとしてるんだな、信徒の間ではですよ、だが、右近その者を、よく調べてみると、そんなに純潔でもないらしい。そこで僕の例の空想は、青年時代の右近には、幾多の女性もあり、やはり迷路の子羊だったことにして書いたんです。そしてそこから解脱してゆく右近を書こうとしましたね。
ところが、これがいけない。さっそく、上智大学のラウレス教授などを初め、多くのクリスチャン読者から抗議が出ました。ラウレス氏などは、新聞を見ますと、はるばる奥多摩の吉野村の僕の家までやって来て、
『絶対に、デウス右近さまは、そういうお人ではない』
というんですな。当時の文献、著書、史料をかかえては、雪の降る日にも、奥多摩の家まで議論に来る。こっちは、議論ばかりしていては、その日の原稿も間にあわない。けれど信仰ですから、熱いんです。また親切心をもって教えるという態度ですから否みもできません。とどのつまり僕は一日、上智大学へ行って、「文芸と宗教」という演題をかかげて、あそこの講堂で二時間ばかりしゃべッたりしました。